良い人材の選び方
英国に駐在する前には、まさか自分が人材の雇用に関わるとは思っていなかったかもしれません。途中入社という概念が無く、数年ごとにスタッフが入れ替わる流動社会である英国では雇用に関わらないというのはマネジャーとしてはありえません。人事部が無いような小さい事務所においてはあなたが雇用の決定をしなくてはならないということもあり得ます。
ステップとしては、1)どのような人を雇用するべきか決める、2)仕事内容や給与などの条件を決める、3)どのように探すか決める、4)有力候補者を絞る、5)面接をアレンジする、6)面接をする、7)面接した候補者の査定を行い決定する、8)ジョブオファーを出す、9)雇用開始する、ということになります。
STEP1)どのような人を雇用するべきか決める
適切な人材を見つけるというのは、一般的な見地から一番優秀な人材を見つけることではありません。誇張を信じて入社してきても、誤解があったと分かれば、優秀な人材であればあるほど、さっさと退社してしまいます。理想的には、あなたの会社の募集している仕事を情熱的に行いたいと考えており、適切な資格と経験、そして状況に合った性格と資質を持っていることです。
STEP2)仕事内容や給与などの条件を決める
英国では、大会社の経営陣と一般的な職種のスタッフとの給与水準の違いはかなりのものですが、日本企業は差が少ないです。その結果、重役や専門職の給与は日本側の認識からして高すぎる印象が出るようです。高い給与を提示できないのであれば、興味深い、または意義の深い仕事内容を提示すればよいかもしれません。しかし、市場価格と比べてあまりにも提示できる給与が低すぎる場合は、本社に状況を説明して市場価格に歩み寄った給与の予算を獲得するべきでしょう。あなたの会社は日本ではそこそこの地位や規模があるかもしれませんが、英国国内での事業規模と知名度で候補者から評価されることも留意すべきでしょう。
STEP3)どのように探すか決める
広告を掲載して人材を探せば、年間給与の何割かに上るリクルートメントエージェントの報酬を節約できます。しかし、数多い候補者の中から有力候補者を絞り込む知恵とカンがあるのかどうか、玉石混交の候補者に何人も会う時間があるのかどうか判断する必要があります。良いリクルートメントエージェントは、どのような人を雇用するべきなのか、仕事の内容や給与水準などのアドバイスを与えてくれ、現在積極的に求職している人たちのみならず、求職していない人にコンタクトしヘッドハンティングしてくれます。
STEP4)有力候補者を絞る
条件を満たす候補者が多い場合は候補者を振り落とす必要があります。譲れない条件とどちらでも良い条件を鑑みて、良い候補者はショートリストに入れていくことになります。ただ、これまで考えたことも無かったが、別の意味で条件を満たす候補者などの応募に当たり、譲れない条件が変わることもあるでしょう。良いリクルートメントエージェントは候補者を絞るプロセスにも協力してくれるはずです。あなたのほうで方針があまり決まっていない場合は、有名大学を卒業している人、一番早く開始できる人や、給与要求水準が低い人など、一般的な条件で決めてしまい、あなたの会社が探しているポジションに一番適した人を選択しない場合もありえます。また履歴書ベースで拒否するのが正しいかどうか不安に感じる候補者の場合は、実際に会ってみればかなりのことがわかりますので、時間が許す限り面接するのが良いと思います。英国人の専門職や重役の場合は、競争社会の原則がかなり働きますので、成功の度合いを測るための経歴の分析が重要です。社内や社外の識者に候補者の履歴書を見てもらうというのが役に立ちます。
STEP5)面接をアレンジする
面接をアレンジする際に候補者の人柄や能力が垣間見れます。自分の都合ばかり出張して妥協しない人、勤務中であるはずなのに柔軟な対応ができる人、早とちりの返答を出す人、質問に対する対応が嚙み合わなかったりする人と感じられる場合は、他の対応についても観察するのが良いと思います。この時点で、英国で労働が可能かどうかチェックをし、ビザをスポンサーするようであれば高い確率で取得できるかどうか確認できていれば、白紙に戻ることがなくなりますので、お勧めします。
STEP6)面接をする
面接においては、あらかじめ、どのような質問をするのか決めておけば、候補者の比較がうまくできます。簡単な職業適性テストやIQテストのようなものを受けてもらえば客観的なデータを得られます。具体的にやってもらう作業がはっきりしている場合は、実際に作業をやってもらうのが良いかもしれません。専門職や重役の面接の場合には、相手がかなり弁が立つので判断が難しいです。できるだけ具体的な話をし、あなたならどうするということを聞くのは役に立つと思います。そして何よりも重要なのは、性別、身体障害、性癖、人種などで差別と考えられる質問はしないように気を付けるべきです。
STEP7)面接した候補者の査定を行い決定する
面接結果を考察する際に注意するべきことは、初期に会った人と後期に会った人の間がかなり空いた場合に判断基準が異なってしまうことです。できるだけ多岐にわたる客観的なメモを作成し、正確に比較ができるようにするのが必要であると思います。決定が難しい場合は、候補者にもう一度面接に来てもらうことも役に立ちます。
STEP8)ジョブオファーを出す
採用が決定すればジョブオファーを出すことになります。数日から数週間の猶予期間の間にジョブオファーを受託するかどうか決めてもらうことになります。経歴の詐称などを予防するために、ひとつ前の雇用者にレファレンスを出してもらうようにすることは一般的です。
STEP9)雇用開始する
出社日には、身分証明、資格証明、労働許可などの書類を持参してもらうことになります。駐在員はあなたの会社が移民法を遵守していることからスポンサーシップをもらっていますので、従業員の労働許可状況を完全に把握しておく必要があります。英国でジョブオファーの際に雇用契約を提示していなかった場合は、一定の期間以内に雇用契約を発行する必要があります。
英国人の学歴について
英国の大学が世界における大学トップランキングに占める数は、米国に次ぐ2位ですので、自分の頭でじっくり考えることのできる優秀な人材は多々います。しかしながら、中学や高校の学力は日本のほうがずっと上であるという結果があります。これは英国では学力が非常に高い人とぱっとしない人の二分化しているということを示しているのかもしれません。
入試で全国模試を受けた経験と就職活動の経験から、あなたはこの大学の経済学部よりも法学部のほうが偏差値が高いとか、大学の社会評価のランキングを比較的細かく知っていたりするのではないでしょうか。
英国での大学ランキングは学部ごとに研究論文数、論文の参照数、学生と研究者との比率などが重視されており、雇用者の評判、就職における学閥の強さ、入学偏差値の高さとは離れた部分で評価されているので、もっと緩やかなランキングになっています。
いわゆるA) 世界的レベルの一流大学のケンブリッジとオックスフォード、ロンドン大学上位校インペリアルカレッジやユニバーシティカレッジ、ロンドンスクールオブエコノミックスなどに(上位旧帝大系?)、B) 赤レンガ大学(Red Bricks)と呼ばれるマンチェスター、ブリストル、バーミンガム、ヨークなどの地方の伝統校(下位旧帝大、早慶?)に、C) ウォーリックやバースなどの国策で設立された新しい大学、(筑波大学や東京首都のような大学)、D) オックスフォードブルックスやロンドンサウスバンクなどの昔のポリテクニックと呼ばれる職業訓練校をベースにした大学など、4つの階層に分かれています。
英国では大学での卒業成績がかなり重視される傾向があります。卒業学位はファーストクラス(1st) 、セカンドクラスアッパー(トゥーワン、2.1) 、セカンドクラスロウアー(トゥートゥー、2.2) 、サードクラス(3rd)という順位になり、大手の弁護士や会計士の事務所に入所するには2.1以下では書類選考で落ちることが多いと聞いています。履歴書に卒業成績の記載がない場合は2.1以下であるかもしれませんので質問してください。
数理の能力が必要な職種では、高校卒業の際に受けるAレベルなどで数学を取っていたかどうか調べるのは良いかもしれません。科目の選択によっては16歳以降に一切数学を勉強していない学生がいます。